シリコンワッペンとPVCワッペンの共通点と相違点

文字や図柄を立体的に浮かび上がらせ、小さくても抜群の存在感をただよわせる「ワッペン」は、アウトドア用品やスポーツウェアなどに広く使われます。あるメーカーの製品に、そのメーカーのものではなく外注で取り寄せて使用した素材のブランドをあらわす「VIBRAM」や「GORE-TEX」といったワッペンが付いているのも、よく目にします。

こうしたワッペンの素材には、布をはじめ、木材、皮革、金属などが使われることもありますが、立体的存在感の表現性が高いワッペンを安価で簡単に作れる素材として、「シリコンゴム」と「塩化ビニール」があります。

前者によるワッペンを「シリコンワッペン」、後者によるワッペンを「PVCワッペン」といいます。

ここでは、両者の共通点と相違点を整理していきます。どちらがイメージしている製品にふさわしいか考える参考にしてください。

シリコンワッペンとPVCワッペンの共通点1・金型に流し込んでつくる

金型製造

両方とも、金型に素材を流し込んで成形します。「流し込む」とは言っても、素材は液状というよりも「粘土」のような性状で、この半固体のような素材を金型に押し込んでいくイメージです。

こうした製法の面では、シリコンワッペンとPVCワッペンにちがいはありません。

シリコンワッペンとPVCワッペンの共通点2・ラバーのような弾力感

ラバー素材のキャラクター

刺繍した布ワッペンの手ざわりとも、金属や木材の硬さとも異なる、ラバー(ゴム)のように微妙なやわらかさと弾力性があり、しっくりと手になじむような感触になります。

そのやわらかさと弾力性は、シリコンワッペンとPVCワッペンのどちらでも、添加剤の加減により調整可能です。

シリコンワッペンとPVCワッペンの共通点3・細部にいたるまでの立体感表現性

立体的な動物の人形

流し込まれた素材は金型の形に応じて立体的に浮かび上がるレリーフを形成していきます。シリコンゴム、PVCどちらでも、立体部分は基盤に対しほぼ垂直に立ち上がるくらいしっかりした硬さを持たせることができます。それだけの適度な硬さがあることから、細い文字や図柄のエッジもきっちり出せます。つまり、シリコンワッペンもPVCワッペンも、細かい文字や図柄まで立体的に表現することができるのです。

以上のように、シリコンワッペンとPVCワッペンは、製法、質感、表現性といった面では同じ、同等のレベルにあります。

続いて相違点を見ていきますが、まずそれぞれの素材についての基本的ポイントを押さえましょう。

シリコンワッペンの素材・シリコンゴムとは

液体

シリコンゴムは、シリコンを主成分とする合成樹脂である「シリコン樹脂」のうち、ゴム状の弾力的性状を持つものを言います。初期状態は液状で、触媒を加えることにより重合反応を起こし、硬化します。

耐熱性、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性にすぐれています。

反面、引っ張り強度、引き裂き強度、耐摩耗性といった力学的要素には弱さがあります。

PVCワッペンの素材・塩化ビニールとは

ポリ塩化ビニール

正式には「ポリ塩化ビニール」と言います。ポリ塩化モノマーを重合させてつくる合成樹脂です。

本来は硬いのですが、可塑剤を加えることでやわらかさを自由自在に調整できるため、多彩なシーンに利用されています。すぐれた耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性もあります。さらには燃えにくい難燃性もあり、熱を伝えにくい低い熱伝導率を持ち、電気を絶縁する電気絶縁性もそなわっています。比重は1.16~1.35と、身の回りにあるさまざまな素材の中でも非常に軽い部類に属します。

欠点としては、高熱で溶ける、低温でもろくなる、熱や太陽光で膨張する、紫外線で白化・褪色する、芳香族炭化水素系の有機溶剤に溶けるなどといった点が挙げられます。

シリコンワッペンとPVCワッペンの相違点1・コストのちがい

ブタの貯金箱

塩化ビニール(PVC)は、ガラスなどの生産プロセスで副産物として排出される塩素ガスを主原料としており、いわば廃物利用ですから非常に低コストで利用できる素材です。

これに対しシリコンゴムは「廃物利用」というわけではないので、ややコストが高くなります。

したがって、シリコンワッペンの方がPVCワッペンよりもややコスト高となります。

シリコンワッペンとPVCワッペンの相違点2・力学的強度のちがい

力強く腕立てをする男性

塩化ビニール(PVC)は、可塑剤を含まない形だとアルミニウム並みの強度を持っています。可塑剤を添加してやわらかくしても、引っ張り強度、引き裂き強度、耐摩耗性などはシリコンゴムをしのぎます。シリコンゴムはそういった力学的強度に劣るため、固定的シールパッキンなどには使われますが、動きのある部分のシールなどには使われません。

シリコンワッペンとPVCワッペンの相違点3・熱に対する抵抗性

噴水で遊ぶ子供たち

熱に対する特性は、両者の間で大きなちがいがあります。なによりシリコンゴムは「熱硬化性樹脂」であり、塩化ビニールは「熱可塑性樹脂」なのです。かたや熱すると硬くなり、かたや熱するとやわらかくなる、正反対の性格を基本としています。

ここから、シリコンワッペンは熱に強くなります。高温でも低温でも性状におおきな影響を受けず、質感を保ちます。

これに対し、塩化ビニールは熱に弱く、65~85度で溶けはじめ、逆に5度以下になると硬くなり、もろく割れやすくなります。

シリコンワッペンとPVCワッペンの相違点4・気体透過性のちがい

透明な海に浮かぶ女性

塩化ビニールは強力な耐水性を持ち、気密性にもすぐれています。これに対し、シリコンゴムには気体をわずかに通す気体透過性があるため、ガス管などのシール材に使われることはありません。

ワッペンという用途の中では、あまり問題にならないちがいではあります。

シリコンワッペンとPVCワッペンの相違点5・紫外線抵抗性のちがい

太陽の光が入る森

シリコンゴムは直射日光やそれに含まれる紫外線による褪色作用(色あせを引き起こす作用)にはかなり強いと言えます。シリコンゴムにくらべると塩化ビニールは紫外線の影響を受けやすく、光にあたった表面が白化し、色あせしやすくなります。

シリコンワッペンとPVCワッペンの相違点6・粘着性のちがい

VOTEDロゴのステッカー

この点は地味ながら双方のワッペンとしての性質におおきく影響します。

塩化ビニールは粘着性が良く、一般的な塗料、接着剤、テープなどにより塗ったり貼ったりが可能です。

これに対し、シリコンゴムは非粘着性であり、一般的な塗料では塗装できず、また一般的な接着剤では接着加工できません。シリコン樹脂に対応した塗料や接着剤も存在しており、市販されてもいますが、一般的なものより多少割高です。完成・納品されたワッペンに事後的に塗装や接着加工をほどこす必要があるケースでは、シリコンワッペンを採用するとコストを押し上げることになる可能性があります。

シリコンワッペンとPVCワッペンの相違点7・耐薬剤性のちがい

フラスコやビーカー

シリコンゴム、塩化ビニール、双方とも、おおむねすぐれた耐薬剤性(耐酸性、耐アルカリ性、耐水性、耐油性など)がありますが、塩化ビニールには弱点があります。「シンナー」や「アセトン」など、芳香族炭化水素系の有機溶剤には溶かされてしまうのです。そうした溶剤を使うことのある場所では、PVCワッペンをむき出しのまま付けるのはさけたいところです。

また、ドライクリーニングで使われる溶剤には、塩化ビニールを溶かさないまでも含まれている可塑剤だけは溶かしてしまうものがあります。そういうドライクリーニングにうっかり出してしまうと、PVCワッペンがラバーの弾力感をうしない、カチカチ、コチコチになってしまうおそれがあります。